住民健康講座

住民健康講座要旨

第213回平成27年7月9日(木)『お口の中の病気―歯周病から口腔がんまで―』
  • 場所津市久居公民館
    津市久居元町2354
  • 講師津歯科医師会 理事
    こいえ歯科口腔外科
    院長 鯉江正人先生
  • 講演要旨 近年、歯周病と糖尿病や心臓血管系の全身疾患との関連性が、様々な研究によって証明され注目を集めています。本講演においては、歯科の代表的な疾患である歯周病とう蝕(むし歯)についてばかりでなく、歯科口腔外科の分野として、『親知らず』(智歯周囲炎)、顎変形症、顎骨骨折などの外傷、口唇口蓋裂の一貫治療、そして口腔がんの診断、予防、津歯科医師会が取り組んでいる口腔がん検診について市民の皆様に知っていただき、お口から始まる健康増進に役立てていただこうと考えました。
     まず、歯周病とむし歯ですが、共通することは感染症であると言うことです。簡単に言うと歯周病菌や、むし歯菌によって引き起こされるお口の中の病気です。お口の中を不潔にしておくと、歯の表面にバイオフィルムが形成されます。例えますと、何日も掃除せずにおいた風呂釜に薄くこびりついた汚れみたいなものです。このバイオフィルムは細菌の集まりで、歯科ではプラークと呼ばれ、成長すると固くなって歯石になります。プラークにむし歯菌があれば、酸を出して歯を溶かしむし歯になります。歯周病菌であれば歯周組織に炎症をおこし、歯肉出血、歯肉の腫れ、痛み、歯の揺れ、口臭などの症状が現れ、最終的に歯を失うことになります。プラークコントロールという言葉は、歯磨き等によってバイオフィルム(プラーク)を除去することです。雑な歯磨きではバイオフィルムを取り去ることはできません。また深くなった歯周ポケット内の汚れは歯ブラシでは取れません。日常の歯磨き習慣は最も重要ですが、歯科衛生士による専門的なケアーが必要になります。プラークコントロールとは、むし歯や歯周病に於ける基本治療とも言えます。まずは近くの歯科医院で検診を受けられることをお勧めします。日本人の平均寿命は80歳をこえ、益々歯の重要性が叫ばれています、それだけ歯を長持ちさせる必要があります。予防によりそれは可能になりますので、是非取り組んでみてください。
     次に『親知らず』ですが、『親知らず』とは第3大臼歯のこと、智歯とも言います。智歯の抜歯は口腔外科の外来手術の中では最も多い手術です。智歯がどうして痛くなるのか、それはやはり細菌感染により炎症が引き起こされるからです。他にも歯並びに影響を与えたり、むし歯になったりすることがあります。下顎の智歯の周囲には神経や血管があり、抜歯には注意を要します。また斜めや水平方向に骨の中に埋まっていて、非常に困難な抜歯であることも多いのです。そのため大学病院や総合病院などの口腔外科専門医によって抜歯されることが多くなります。まずは細菌感染を起こさないように予防することが大切ですが、炎症(智歯周囲炎)を繰り返すことが多く、その場合は抜歯されることをお勧めします。
     顎変形症は聞き慣れない言葉かも知れないですが、先天的あるいは後天的に顎が変形することにより、噛み合わせの異常や審美的障害を生じる症状をいいます。特に歯科口腔外科で取り扱うのは噛み合わせの異常を伴ったものです。代表的なのは『受け口』(下顎前突症)です。軽い下顎前突症(反対咬合)であれば歯科矯正により治療できますが、重度の骨格性の下顎前突の場合、噛み砕いたりする機能の障害が十分に改善されないため手術が適応となります。手術前の矯正治療(術前矯正)の後、下顎骨あるいは上顎骨の骨切り手術を行い、顎をダイナミックに移動させ噛み合わせを整えます。結果的に審美的にも改善される場合が少なくありません。しかし、この治療は美容整形手術ではありませんので、矯正治療も含めて保険が適応される場合があります。口腔外科専門医あるいは歯科矯正専門医に相談してみて下さい。
     交通事故や転倒等により顎を強く打撲すると骨折することがあります。顎骨骨折の症状として、噛み合わせの異常があります。もちろん顎の運動が制限され食事や会話ができなくなります。そのため骨折した骨を整復するだけでなく噛み合わせを完全に元に戻す必要があります。また骨折部位の歯の外傷の処置も必要になることが少なくありません、たとえ歯を失うことがあったとしても欠損部の処置をうまく行えば、将来的に人工歯根(インプラント)を入れたりすることもできます。顎骨や歯の外傷の治療も大切な歯科口腔外科の分野であることを覚えておいて下さい。
     口唇口蓋裂は歯科口腔外科の中で取り扱う先天異常の一つです。出生してから成人するまで、言い換えると顎の成長が完了し、噛み合わせが完成するまで、歯科が関与していく疾患であると言えます。まず出生直後、哺乳のための口蓋床(哺乳床)を作るために、赤ちゃんのお口の型取り(印象)から始まります。顎の成長にあわせて口蓋床を調整しながら、手術を待ちます。手術後には歯科矯正を行ったり、言語治療を指導したりします。うまく発音ができない場合は、発音を助けるスピーチエイドなどを作り(入れ歯のようにお口の中に入れる装置)支援して行きます。最後に歯が欠損している部分にブリッジや部分義歯、インプラントなどの治療を行い噛み合わせを完成させます。上下の顎の成長のバランスが悪く噛み合わせに異常がある場合には、先に紹介した顎変形症の手術を行うこともあります。このように長期にわたる歯科の一貫した治療が必要となるのが口唇口蓋裂の治療の特徴です。
     最後に口腔がんについてですが、口腔がんとは、お口の中にできるがんのことで、発見が遅れると他のがんと同様に死に至る病です。この口腔がんは、がん全体の約3%を占めています。この中で舌がんが約50%、歯肉がんが約25%を占めています。他にも口底(舌の下)、頬粘膜などにもでき、高齢化とともに口腔がんも増加傾向にあります。原因は不明な場合が多いですが、危険因子として、喫煙、飲酒、不適切な生活習慣、むし歯や入れ歯などの慢性刺激があげられ、予防効果の高い因子として緑黄色野菜の摂取、口腔衛生状態の良好な維持などがあげられています。初期の症状として、痛みは無い場合が多く、しこり(硬結)や白色病変として現れることが多いです。また目で確かめることができるがんであるにもかかわらず、発見時には進行していることも特徴の一つです。治療としては手術、抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療等があり、舌がんを例にとると初期のものであれば手術によりほとんど後遺障害を残さず治療することができ、5年生存率も80%以上を期待出来ます。そのため早期発見早期治療がポイントになります。津歯科医師会の取り組みとしては、毎年6月にリージョンプラザにおいて歯の健康展を催し、その中で平成23年度より『口腔がん検診』を行っています。毎年100名程の方が検診に訪れていて、口腔がんが検出された例もあります。もし気になる症状があればまず歯科医院を受診し、原因となるものがあればそれを治療し(歯や入れ歯の調整)、2週間以上経って変化がなければ大学病院などの口腔外科専門医を受診しましょう。
     他にも顎関節症などについて、時間がなくお話しできなかったことは残念です。歯や歯周組織は皆さんの大切な体の一部であり、健康で質の高い生活をおくりながら長生きするためには必要なものです。日常の取り組みによってこれらのお口の中の病気を大部分予防することができます。かつて日露戦争の頃、日本の外交官が西欧を外遊したとき、西欧人が歯ブラシで歯を磨きするのを見て感心したそうです。もはや当然のごとく日本は完全な先進国です。お口の中のケアーをするのは当然と言えるでしょう。
ページの先頭へ