住民健康講座

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平成29年5月11日(木)第231回『高齢者糖尿病』

場所津市久居公民館
津市久居元町2354
講師田中内科
副院長 田中 崇先生
講演要旨 日本人の寿命は男女ともに増加傾向にあり、平均寿命と健康寿命は世界で最も長いものとなっている。ただ、平均寿命と健康寿命には差があり、その差がいわゆる要介護年数となる。この差は平成25年の統計では男性では9.02年であり、女性では12.40年である。
 日本では多くの場合、65歳以上を高齢者と定義していることが多いが、体力面の向上等もあり、最近では75歳以上を高齢者と定義しようとする検討もある。
 近年、高齢化とともに健康面において問題となっているものが、「サルコペニア」や「フレイル」といたものがある。サルコペニアとは筋肉の減少(萎縮)を表しており、転倒や骨折の原因となり、ひいては要介護や寝たきりの原因にもなってくる状態である。
一方、フレイルとは「虚弱」、老衰」や「脆弱」などを示す言葉であり、「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」とされています。健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。
 近年の調査では、60歳を越えると6人に1人が糖尿病であるという驚くべき数字があり、また、加齢とともに糖尿病による合併症の頻度が高くなり、加えて、動脈硬化などの病気も出てくるため、一人でいくつもの病気に苦しむ人が増えます。平均寿命をみても糖尿病患者と非糖尿病患者を比べると、男性では約8歳、女性では約11歳の差があり、糖尿病患者の方が寿命は短いです。
 高齢者では、インスリン分泌能の低下・末梢組織でのインスリン効果の減少・腎臓などの内臓機能の低下・合併症の頻度の増加 等により糖尿病の発症や悪化がしやすい状態にあります。それに加えて、食事療法がうまくいかない(食習慣が変えられない・義歯が合わない・固いものが食べにくいなど偏食がちになる・食べ物を残すのがもったいない など)状況があったり、サルコペニアやフレイル等の進行により、運動療法がしっかりと出来ない状況も糖尿病を悪化させます。
 糖尿病をもつ高齢者では、認知症の発症頻度は非糖尿病患者の約2から4倍、転倒・尿失禁・低栄養・腰痛・膝関節痛などの老年病の合併も非糖尿病患者に比べ約2から3倍多いと報告されています。さらに、高血糖があり脱水症状が著しい場合は、高血糖高浸透圧昏睡(意識がなくなる)に陥ることがあり、緊急の対応が必要になることがありますが、逆に低血糖による異常行動は認知症と間違われやすいものです。
 また、糖尿病治療を受けている高齢者において、血糖値を強く下げるような薬(SU薬、インスリンなど)を使用している場合には重症低血糖を起こすことがあり、重症低血糖を繰り返すことで認知症の発症・悪化が進行することがあるので、特に血糖コントロールの悪い高齢者は強く血糖値を下げる必要はなく、HbA1cは概ね7~8%で推移することが望ましいとされています。ただ、血糖コントロールがいい状態であれば無理に血糖コントロールを悪くし、HbA1cを7~8%まで上げる必要はありません。
 今後、超高齢化社会を迎えるにあたり糖尿病治療を行っていく上において、高齢者自身が服薬管理やインスリン管理ができなくなることがあったり、閉じこもりや認知症・寝たきり状態などいろいろな諸問題があります。そのため医療以外にもデイサービスなどの介護保険制度の利用や訪問看護の利用など社会的サポートも必要となります。
高齢者糖尿病の管理として、医療的サポートと社会的サポートの両立が重要であり、低血糖や極端な高血糖のリスクをいかに上手くコントロールできるかが重要となります。